小児科医・仁科

小児科医・仁科のコラム一覧

第001回 こどもの「やけど」の話
第002回 肛門周囲膿瘍、肛門のまわりの「おでき」の話
第003回 よく吐く赤ちゃんの話1:胃軸捻症
第004回 こどもの「べんぴ」の話
第005回 神経芽細胞腫(小児がん)のお話

こどもの「やけど」の話

十分注意していたのに、そのすきをついて発生するのが子供の「やけど」です。

とも角『冷やす』

どこのどの程度の「やけど」であれ、一番大切なことはすぐに冷やすことです。衣服に熱湯がしみこんでいる場合には、衣服を切り裂いてでも早くはずして、水道水を流しっぱなしにして冷やします。最初の30分が勝負です。早期に十分冷やせば「やけど」が皮膚の深い部分に及ばないようにできるからで、この点に関しては病院に着く頃には決まってしまっているからです。他の人手がある時にはポリ袋に氷と水を入れたものやアイスノンをタオルで包んで「やけど」部分にあて移動の準備をします。医療機関への問い合わせや救急車要請はその後です。

救急車を呼んだ方が良い?

頭と顔全体・胸~腹ほぼ全域・胸と背中全体・両足全体など広い範囲の「やけど」の時や、目の「やけど」、熱い蒸気を吸い込んで苦しそうにしている、などの場合は救急車を呼んで入院も可能な病院にかけつける必要があります。それ以外の場合は、冷やすことを最優先にしながら、受診できる病医院(皮膚科・小児外科)をさがして診察を受けましょう。

受診しないとだめ?

赤くなっているだけの場合や、水ぶくれの範囲が本人の手のひらくらいまでで破れておらず、かつ関節にかかっていない場合などには、よく冷やした後に手持ちの軟膏を塗るなどするだけで、必ずしも受診しなくても大丈夫です。水ぶくれの皮は、内部に新しい皮膚がはるまで皮膚を保護する働きをしてくれるので、自然に破れるまではそっとしておくべきなのですが、内容が黄色や黄緑色に変わるようなら病医院を受診しましょう。

肛門周囲膿瘍、肛門のまわりの「おでき」の話

肛門のまわりに「おでき」ができる、片側が赤くてテカテカ光った感じに腫れる、これが肛門周囲膿瘍です。再発を繰り返して小さな穴ができた場合には乳児痔ろうと呼ばれることもあります。比較的多い病気で、主に男の子がかかります。女の子に多い肛門の前の方の嘴型の突起は別のもので、これについては別の機会に述べます。

まず心配な病気の成り行きですが

上手に付き合うと、おむつがとれる頃には完治することが多い病気です。乳児痔ろうとなっても同じです。痔ろう部分が残って手術が必要となることもありますが、この病気にかかったお子さまの1/100以下でとても少ないのです。

治療の基本は膿を貯めず、うんちの状態を良くし、清潔を保つことです

治療法は病医院ごとに微妙に異なりますが、基本は同じです。当クリニックでは圧迫治療をお勧めしています。家庭で手軽にできて、通院頻度を少なくできるからです。

膿を貯めないための圧迫療法

腫れた部分をお尻の両側の骨に向かって押すと、肛門の中から膿が出てきます。また、腫れの中心が白くなっている時には、それをつまむと中から膿が出てきます。両方を駆使して膿を全部しぼり出してしまうのが最初の治療です。膿が出せない場合には、メスや針で小さく切開して膿の出口を作る場合もあります。出口は自然にふさがり易いので、圧迫を繰り返して維持します。出口維持のためにガーゼや管を通しておく方法は、乳児に向かないことはご想像いただけると思います。あとは家で、おむつ替えの度に「つまんで押して」を繰り返していると徐々に治ってきます。受診はこれがうまく進んでいるかチェックするのが目的ですから、2日後、1週間後、3週間後、と受診ごとに間が長くなっていきます。手当てが良くても再発が多い病気ですが、家で圧迫療法を続けていると新しく出来たことにも気づきやすく、早めに治療が始められるという利点もあります。

うんちの状態を良くする

下痢気味のお子さまに多いので、母乳児がかかり易いのは確かですが、だからといって母乳をやめる必要はありません。乳糖不耐症の場合には特別なお薬を使用しますが、多くの場合は乳酸菌製剤などで便中の細菌の成分を整えてあげれば十分と考えています。十全大補湯という漢方薬が有効と言われますが、体の塩分に影響する可能性がある薬で、子供の副作用に関する情報が少ないので、現在のところ当クリニックでは使用していません。

手軽に洗浄して、おしりの清潔を保つ

膿に含まれている細菌を肛門の周りから洗い流して減らすことも大切です。一々お風呂に入れて洗うのは大変ですから、新しいおむつに替える前にぬるま湯で洗い流すのがベストです。最近は薬局でもお尻洗い用の容器が売られていますが、お台所洗剤の空き容器でも十分使えます。手軽で続けられることが一番大切なことです。

抗生物質は使用しなくて良い?

膿が貯まり始める前の早い段階では有効なこともありますが、既に膿が貯まっている状態の場合は抗生物質は効きません。むしろ下痢が悪化して悪影響もあるので、通常は使用しません。

よく吐く赤ちゃんの話1:胃軸捻症

赤ちゃんはよく吐くものです。「げっぷ」の時におっぱいやミルクを少し吐いたり、時々口の端からタラッと流れ出したり。この程度なら普通のことですが、飲む度に吐くとなると心配になるものです。多くは「げっぷ」が不十分だったり、哺乳ビンからの飲み方が下手で空気を沢山飲み込むための嘔吐で(呑気症と言われます)、「げっぷ」を上手にさせたり乳首の材質や穴の大きさを調節すると良くなったりします。呑気症が赤ちゃん特有の胃の構造の影響もあって悪循環に陥ったのが胃軸捻症と考えられますが、定説はありません。

乳児期の胃軸捻は病気というより状態

主な症状は、いつも「おなか」が張っている、おっぱいの度に噴水のように吐く、ガスの回数が多い、いつもウーンウーンとうなっている、何度も便が出るけれど少し付着する程度のことが多い、などです。体重の増加には問題なく、「おなか」全体が張っているのが特徴です。これだけの症状があるのに、原因は「とっくり型」の赤ちゃんの胃が倒れたり、少し捩れているだけのことなのです。胃のまわりの組織がしっかりして来るお誕生日頃には、自然に治っていくのが普通です。3~4歳以降のお子さまにも胃軸捻症はありますが、症状や原因が少し違う上、手術が必要な可能性があるので、ここでは触れないことにします。

うつ伏せ寝が危険なので・・・

乳児期の胃の軸捻はうつ伏せ寝にするだけで治ることが多いのですが、赤ちゃんのうつ伏せ寝では突然死の発生率が高いことが分かっているため、なかなか踏み出せません。代わりに積極的にガスを排出させて腸に押し上げられて捩れている胃を正常位置に戻そうということで、1日2~3回浣腸を行う治療が行われています。胃が大きくなってしまう前に治療を始めると、9か月頃から手を抜き始めてお誕生日頃には治療がいらなくなることが多いので、早めの受診をお勧めします。

治療しないとだめ?

症状が軽い場合には、「げっぷ」をさせた直後に、右を下にするように寝かせておくだけでも改善することがあります。ただし、意図せずにうつ伏せに倒れてしまうことがあるので(準備をして行ううつ伏せ寝より危険です)、目を離さないことが重要です。 症状が重くても時期がくれば自然に治るお子さまの方が多いと思われますが、中には将来手術が必要な胃軸捻症になっていく場合や、非常に稀ではありますが胃が破裂して命にかかわる場合もあるので、一度は受診して状況を確認しておくことをお勧めします。

こどもの「べんぴ」の話

たかが便秘、されど便秘で、小さなお子さまの場合はご両親の悩みの種になることが少なくない病気ですね。

どこからが病気?

哺乳時期のお子さまは1日1~2回うんちが出るのが普通ですが、たまに1日2日出ない日があっても大丈夫です。離乳期以降も1日1回が理想的ですが、1日おきでも確実に出ていれば良いし、たまに2~3日あいても気にする必要はありません。かぜ薬(特に咳止め)を飲んでいる時には便秘になりやすいものですが、通常は薬を飲まなくなれば元のペースにもどります。これは「たまに」なら間があいても良いということであって、3~4日に1回が普通という場合には受診が必要です。治療が必要な便秘体質であったり、栄養に問題があったり、他の病気が隠れている可能性があるからです。

生まれて初めて胎便が出たのはいつかご存知ですか?

2000g以上で生まれた赤ちゃんは24時間以内に初めての便が出るのが普通です。24時間以上経ってから出ても問題ないことも少なくないのですが、何らかの病気(腸の神経が一部なくて手術が必要なヒルシュスプルング病など)が隠れている可能性があるので、一度は受診されることをお勧めします。

治療の原則

排便の習慣をつけることと、それを妨げる要因(硬く太い便で肛門が裂けて排便する時に痛む裂肛 "切れ痔" という病気が多い)を排除すること、習慣ができるまでの間に直腸が拡がり過ぎないようにすること、の3点が原則です。これさえ達成できれば、「飲み薬」でも「こより浣腸や坐薬や浣腸」でも「おばあちゃんの知恵」でも、どんな治療法でも良いのです。

哺乳時期の便秘にはまず糖類を追加してみる

含まれるオリゴ糖のおかげか、母乳を飲んでいるお子さまは便秘しにくいので、便秘の場合は母乳がよく出ているか、体重増加は良いかなどチェックが必要です。ミルク育ちのお子さまが便秘傾向の場合にはマルツエキス(麦芽糖)などの二糖類が使用されてきましたが、最近はオリゴ糖も簡単に手に入るので、このような糖類をミルクに足して飲ませてみることから始めるのが良いと思います。

離乳時期の便秘には繊維より水分を十分に摂ることの方が大切

離乳時期には腸が慣れていない食物繊維が入ってくる上、母乳やミルクから摂っていた糖分と水分が減って便が硬くなりやすいものです。便を硬くし過ぎないためには、麦茶や白湯などで水分を多くとることが有効です。効果てき面なのはジュースですが、将来の虫歯のことを考えるとお勧めはできませんので、一歩譲って乳児用スポーツドリンク程度に留めていただければと思います。水分の多い果物も有用です。牛乳は栄養面からは大切ですが、こと便に関してはかえって硬くしてしまうことが多いので、飲む量は個人差にあわせて調節していただければと思います。

病医院での治療

前述の方法がうまくいかない場合や、1歳過ぎのお子さまは受診していただくのが良いと思います。治療は便の量を増やしたり軟らかくする飲み薬(カマ・ラキソベロン・大建中湯などのお薬がよく使用されます)で治療する場合と、浣腸や坐薬で直接排便をうながす方法があります。どちらを使用するか、組み合わせて使用するのかなどは、お子さまの状態に合わせて考える必要がありますので、受診時によく説明をきかれると良いと思います。

放置した場合に起きることは?

最も衝撃的なのは、トイレで排便していたお子さまが突然失禁状態になることです。幼稚園や小学校で起きるので環境へのストレスのためと思われがちですが、多くは高度の便秘によるものです。自分では出せない太くて硬い便が肛門に入り込んで常に肛門が開いているので、その横を通れる大きさの便が本人の自覚なしに出てしまうもので、溢流性便失禁と呼ばれます。1歳頃には3~4日毎に便が出ていたので問題ないと考えていたご両親が多く、3歳頃には1週間に1回になり、そのうち時々行う浣腸以外では便は出なくなった、というのが一般的な経過です。元凶は1歳頃の3~4日に1回の便通で、便が貯まっている間に直腸が拡がってさらに貯められるようになり、中に硬く大きな便塊ができてしまうのです。下痢と便秘を繰り返すお子さまも、多くは同様の便秘の悪循環の結果です。治りますが、便を出し切るまでが大変ですし、その後年単位の管理が必要になります。成人してから2週間から1月に1回しか便が出ないと受診されても、その巨大な直腸に関しては殆どお手上げ状態です。便秘と大腸がんの関係も言われておりますし、お子さまが小さいうちに早期に手をうっておくことが重要と考えられます。 一方、思わず救急車を呼んでしまうような突然の強い腹痛の8割前後は単なる便秘です。症状は激烈ですが、排便習慣が正常で直腸が拡がっていないところに急に便秘したための腹痛と考えられ、一度浣腸で貯まった便を出してしまえば、その後の治療にはあまり時間がかからないのが普通です。

神経芽細胞腫(小児がん)のお話

「神経芽細胞腫」聞き慣れない名前だと思います。少し短くして「神経芽腫」とも言います。実は2003年までは日本全国の乳児がいるおうちなら誰もが知っていた小児がんの名前でした。なぜ知名度が落ちたかというと、それまで6ヶ月健診時に行われていた尿検査の「マススクリーニング」が中止になったからなのです。マススクリーニングって何かというと、有名なのは生まれてすぐに受けるガスリー検査で、発病する前に大丈夫か全員に検査を行って確認して間に合ううちに治療を開始する方法のことです。「神経芽腫」のマススクリーニングは、現在なお北海道や東北、九州では行われています。

なぜマススクリーニングが行われたのでしょう。

小児がんで一番多いのは皆様ご存知の「白血病」ですが、「神経芽腫」は塊を作る小児がんでは一番多い病気で、尿に含まれるVMAという物質を測定すると発見できます。さらに、この腫瘍は1歳前に発見すると90%以上が助かるのに、2歳を過ぎて発見されると今でも治療が大変難しく助からないことも覚悟しなければならないので、何とか1歳前に発見してしまおうということで開始されたのです。実際、マススクリーニングで発見された「神経芽腫」のお子様の98%が完治しました。

そんなに良いことなら、なぜ中止されたのでしょう。

ところが、始めてみると幾つかの問題が出てきました。
①尿にVMAを出さない性質の神経芽腫や、6ヶ月の時点では腫瘍が小さくVMAが少なすぎて正常と考えられたお子様などで発見が遅れる傾向が出てきた。
②発見されたお子様の半数近くが自然に治ることが分かった。もし自分のお子様が自然に消えると分かっているのなら、知らない方がよかったとは思いませんか? 消えたことが確認できるまでは何度も検査が必要だし、沢山沢山心配もするのですから。
③統計をとってみると腫瘍が進行していて(いわゆる手遅れ状態で)治療が困難なお子様が、期待されたほどには減少しなかった。
そんな訳で「コストパフォーマンスが悪い」ということで中止になったのです。

国が中止してもやめない地域があるのはなぜなのでしょう。

私は八王子周辺の「神経芽腫」のお子様のほとんど全部を診療してきたのですが、マススクリーニングが中止されて2年が経過する頃から、かなり進行してしまってVMAの値も信じられないほど高い2歳過ぎの患者さんがまたお出でになるようになりました。前に述べた③が真実なら、マススクリーニング中に2歳以上の患者さんが殆どおられなかったのはなぜだったのでしょう。そんな印象を持っている医者は私だけではありません。だから、いきなり中止はせずにマススクリーニングの時期を遅らせたり、2回行ったりと、前に書いた問題を解決すべく努力をしながら続けている地域がまだかなりあるのです。

検査のご希望があれば、当クリニックでもVMA検査は行えます。

自治体がマススクリーニングをやめても、VMAの検査を禁止している訳ではありません。病気ではないので健康保険はききませんから自費で行うしかないのですが(1500円くらいかかってしまいます)、間に合う時期に尿のVMAを測定することはできます。オムツの中に脱脂綿を入れておき、朝起きた時に濡れた脱脂綿を試験管やビンにしぼってアルミホイルで遮光してお持ちいただければ、測定することができます。時期は1歳近くが良さそう、夏は雑菌が増えるために異常値が出やすいので避けた方が良さそう、などのお勧めはありますが、いつでも測定は可能です。マススクリーニングが中止になった理由(検査のデメリット)もよくお考えの上、ご希望があればおっしゃっていただければと思います。