第7回 日本病院脳神経外科学会 会長講演より抜粋

医療法人社団北原脳神経外科病院
理事長 北原 茂実   平成16年7月18日

 

こんにちは。北原脳神経外科病院、理事長の北原茂実です。

以下は当院主催による第7回日本病院脳神経外科学会で行った私の講演の抜粋です。

若い人に日本の医療の問題点とその打開策について考えて欲しくて、ホームページにも公開することにしました。

ご意見・ご質問は遠慮なくお寄せください。


はじめに

若いうちに見定めなくてはいけない

・資格さえ持っていれば万全か?
・専門バカの未来は暗い
・時代や社会の流れを読める大人であれ
・医療がビジネスであることを忘れるな
・医療人こそ、自ら考え起業するビジネパーソンであるべき

 

夢は中年過ぎてからみることも、もちろん可能ですが、実現するには時間とエネルギーを必要とします。漫然と日々を過ごしていると、夢の実現方法を学ぶ前に年とってしまいます。若いうちに自分が何者で何を目指して生きるのか、見定めてください。

では、本題に入る前にまず、聞いてください。

 

医療職って有資格者がほとんどですよね。しかし、資格を持っているだけで一生食べていける時代は終わりました。自分が提供するサービスの代価として給料がもらえるのです。下手な検査、雑な看護、不適切な治療しか提供できない有資格者は代価をもらえなくて当然です。消費者である患者は資格に代価を払っているわけではないのです。

医療はサービス業で、ビジネスです。病院はサービスを売り、利益を出し、それによって社会貢献していることを忘れないで下さい。

みなさん、選挙には行かれましたか?時々、忙しくて新聞も読む暇ないし、ニュースも見ない、なんて言う方がいますが、そういう方に限って、タレントの噂話に詳しかったりします。日経新聞までは読まなくてもいいけど、医療ほど社会や時代の動きに密接に連動している産業もありません。それを知ろうともしないということは、専門分野の勉強も押して知るべしでしょう。

専門的技術を持っているだけではだめだというエピソードをひとつご紹介します。IT関連の社長から聞いた話ですが、彼の会社で派遣で働くSEには一人につき月100万円支払うのだそうですが、そのうち、派遣社員本人がもらうのは25〜30万円しかないそうです。全部仲介業者が吸い取るんですね。そういう人たちは40才を目の前にして急に自分に未来がないことを知り、焦るんだそうですが、自分が持っている技術でどんなシステムを作れば人の役に立って、どうすればよく売れるのか、若い頃から考えなければ、技術の切り売りしかできない人になってしまいます。医療も同じです。

というわけで、有資格者である医療人こそ、組織の中で自分の商品価値を高め、自分達の提供する良いサービスをアピールするビジネスパーソンであるべきです。


自己紹介

 

・なぜ、自分で病院を作ったのか?

・患者と職員が幸せになる医療とシステムとは?

 

かくいう私は決して20代から病院作りを目指していたわけではありません。

医者になり、脳外科医を名乗るようになって、初めて一生自分が働きたいような病院がどこにもないことに失望して、自分でやろうと決心したのが30歳過ぎです。

実現までに10年かかりました。辛い10年間でしたが、その時の経験が今の自分を作っています。

まず、平成7年に41床で小さい病院を作り、2年後に脳ドックの北原RDクリニックを作り、平成12年に本院を大幅拡張、今年の春北原リハビリテーション病院をオープンしました。

今後は、一つには、チャレンジ精神を失わないために、海外で人の役に立つ病院を作りたいと思っています。

海外進出を考えたもう一つの大きな理由は日本の医療に閉塞感を覚えているからです。どんな問題があるか、あとで話します。

 

 

平成9年 北原RDクリニック開設

平成16年北原リハビリテーション病院開設

昭和28年 横浜で生まれ、その後東京都狛江市で育つ

昭和54年東京大学医学部卒業後、東大脳神経外科入局
三井記念病院、富士脳研病院、都立府中病院、帝京大学附属病院等を経て

平成7年1月北原脳神経外科病院開設

平成18年海外進出?

 

 


目次

1.クリプトクラシー国家、日本の構造
  -医療・介護は日本経済の厄介ものか?
  -本当に公的病院は必要か?


2.今、私たちは何をなすべきか
 -病院の企業化
    自らを、組織を変革し、能力が生かせる職場を作ろう
    文句をいっているだけの若者に明日はない
 -ボランティアシステムが社会を変える
  -日本の医療を輸出産業に変えよう

 

さて、本題、本日の目次です。ビジネスパーソンとして、現在の日本の医療システム、医療ビジネスについて、問題点と解決策をともに考えましょう。

クリプトクラシー国家とは収奪国家という意味で、「日本政府および一部の人々が国民から税金を巻き上げてる!」というのが私の考えです。

 


1.クリプトクラシー国家、日本の構造

@医療・介護は日本経済の厄介ものか?

日本の医療費は本当に高いか
・ますます緊縮を迫られる日本の社会保障
・道路と医療ーどっちが大事?
・厚労省が医療費を削減したがる本当の理由

  今、少子高齢化が問題になってますよね。医療や介護って何も生まない、お金を使うだけの厄介物だって思わされていませんか?アメリカの医療産業は立派にお金を稼いでいます。この場合、お金とは外貨のことです。海外に器械や薬や技術を売っているのです。自動車産業が大きな顔をしているのは外貨を稼ぐからです。日本の医療は残念ながら全部輸入ばかりで情けない状況です。まず、この点を変えなくちゃいけませんね。日本で技術やシステムを開発して海外に売らなくてはいけない。世界中から日本に外国人が医療を受けに来る、あるいは医療を売りに海外に出て行かなくてはいけません。

では国内で消費する医療費は本当に無駄なのでしょうか?国家の基本は医療と教育というのが私の持論ですが、役人はGDPに占める医療費比率は年々増加し、それは悪い医者が儲けようとしているからだというようなマスコミキャンペーンをよくやります。マスコミは大衆にねたまれる存在を悪者に仕立てれば受けるので、易々とそれに乗るんですが、日本の医療費は本当に彼らの言うように高いんでしょうか?

道路を作れば、景気が良くなって、国民は幸せになるんでしょうか?


 

国民医療費高騰の嘘

このグラフは平成9年の医療費改定のときに、当時の厚生省が盛んにマスコミで喧伝した、今後の医療費の伸びです。

見てお分かりのように、総医療費は平成12年で伸び止まり、その後も診療報酬値下げによって、全く増えていません。

役人の予測とのギャップは平成12年で8兆円、平成22年には今の2倍以上の68兆円になると国民を脅したんですね。

今の30兆円だって、世界レベルで見れば対GDP比で世界18位です。これで乳児死亡率は世界最低、そして世界1の長寿国であることはご存知の通りです。

日本は決して医療費を無駄使いしている国ではありません。

 


 

日本の社会保障の現状、医療費は先進国中19位

日本の社会保障費は対GDPの国際比較で見ると、この通りで、かなり低い水準です。

特に、医療を見てください。ドイツやフランスの半分です。

昨今の年金財政の無駄使いを見るにつけ「医療費減らせとは何ごとだ!」と言いたいですよね。

※スウェーデン、ドイツ、イギリス、日本:1999年 アメリカ:1992年 

(出所) 国立社会保障・人口問題研究所調査より作成

月間保団連 「グラフで見る医療改革」より (許可を得て転載)


 

実額でも、けた違いに安い日本の医療費

実際の医療費の比較です。

海外で病気や怪我をすればこんなにかかるのです。

マスコミはこの事実はいつも、あえて触れません。

 

(出所) 厚生の指標1990年3月

月間保団連 「グラフで見る医療改革」より 


どこに消えるのか?私たちの社会負担

私たちの納めた税金は私たちのために使われているのでしょうか?

「負担と給付の公平」はこの比率を見る限り、日本では実現されていませんね。

納めた税金・年金が別目的で一部の人のために使われたり、不必要な道路や箱物およびその維持費に使われているのが日本という国の現状なのです。

(出所) 総理府社会保障審議会「社会保障統計年報」より作成

月間保団連 「グラフで見る医療改革」より 

(出所) 総理府社会保障審議会資料より作成

月間保団連 「グラフで見る医療改革」より 


低医療費を可能にする医療者からの搾取

どうして日本は医療費が安いのか?世界各国から不思議がられているのですが、ご覧の通り、医師も看護師もこんなに少ないのが、安い医療費の秘密です。

もちろん、医師や看護師の報酬も諸外国に比べ激安です。

 

 

(出所) 日本「医療施設調査・病院報告」、諸外国OECD「Health Data1998」より

月間保団連 「グラフで見る医療改革」より 

(出所) 日本「衛生行政業務報告」、諸外国OECD「Health Data1998」より

月間保団連 「グラフで見る医療改革」より 


ますます緊縮を迫られる日本の社会保障

さらに、他の国は社会の成熟と市民のニーズに合わせて10数年前より最近のほうが当然社会保障の比率を上げているのに、日本は逆に減らしているんです。

役人はいったい何を考えているのでしょう?

 

 

(出所) 国立社会保障・人口問題研究所「社会保障費国際比較基礎データ」

月間保団連 「グラフで見る医療改革」より (許可を得て転載)


 

 

不必要な道路や箱ものを、先進国全部あわせたより多く作ってる日本!

上の答えがこれです。

土地代を除いた上で計算しても日本のいわゆる公共事業費はなんと6カ国合計より多く使っているのです。

これでは医療も福祉もお金が回ってこないはずですよね。

 

一般政府固定資産形成の金額(1995年度OECD資料による)

月間保団連 「グラフで見る医療改革」より (許可を得て転載)


厚労省が医療費を削減したい、 本当の理由

少子高齢化の予想を超えた進行、フリーターの増加
・過去の失政が招いた大きな財政難
・現在も続く特別会計の私物化
・輸入産業である医療に投資することによる損失

 

なぜ、厚生労働省の役人は国民を欺いてまで医療費を減らしたいのか?

一言でいうとお金が今もないし、今後もっと足りなくなる予測が立つからです。確かに少子高齢化は予想以上のスピードで進んでいますよね。今後は若者一人が4人の老人を支えるのです。さらに最近その若者にフリーターが増えています。会社の負担の大きい正社員を経営者は減らしたいのです。支え手にならない若者が増えればそれだけ正社員の若者の負担が大きくなりますよね。

そして実は、医療も年金と同じで税金や公金の使い方を間違えていたのです。厚生年金病院など赤字病院を全国に作り、製薬会社の言いなりになり、薬漬け医療を許した。癒着とまでは言いませんが、天下り組織は今もいやというほど存在しています。つい最近もレセプトコンピュータソフトの顧問料問題が明るみに出ましたよね。高度経済成長期には、いい加減なことをしても目立たなかったけど、財源がなくなってるのにまだ私物化を許している、この現状は危機的です。

もう一つ、彼らには器械も薬も外国から輸入してばかりの、医療業界の輸入体質が外貨の流出を招くという意味で、潜在的危機感を持っているのでしょう。国の貯金が減ることへの不安があると思われます。


1.クリプトクラシー国家、日本の構造  

 −A公立病院は本当に必要か− 

都立病院の実態
・県立病院の実態ー兵庫県の例
・その他の公的病院の実態
・赤字の生じる理由
・現状の問題分析
・私的見解

 

 

さて、皆さんの中に公立病院にお勤めの方がいたら気を悪くなさるかもしれませんが、これから述べることは日本の医療行政の構造的問題を指摘するもので個々を攻撃するものでは決してありません。

私は公的病院の存在が日本の医療を悪くしていると考えています。



都立病院の実態 

都立16病院8000床(都内全病床数の6%)が出す赤字⇒ 年間500億円
・都内のすべての患者が都立病院に入院したとすると赤字総額は年間8000億円に及ぶ
・都民から集められる介護保険料は都立病院が垂れ流す赤字の半分に過ぎない!

 

 

都立病院は全部で16あってベッド数は8000、これは東京都の全病床数の6%に当たります。ここから出る赤字は毎年500億円、ちなみに平成14年度の東京都の総赤字額は524億円です。

もし、都内のすべての患者が都立病院に入院したら赤字総額は8000億円、東京都の総予算が6兆円だから、いかにひどい状況かわかりますよね。

都民全体から集められる介護保険料は250億円、都立病院が存在しなければ都民は介護保険を納めなくても、同額のおつりがきます。


県立病院の実態―兵庫県の例

県立10病院で年間130億円の経常的補助金と約40億円の資本的補助金を注入してなお、年約29億円の赤字
・県立10病院の年間平均入院延べ患者数は123万人→県内全入院患者数のたった6%
・従って、たった6%の患者が200億円(ひとり1日あたり1万6000円)もの税金の恩恵に浴す

 

こういう状況は東京都だけではありません。

兵庫県を例にとると、
県立10病院で年間130億円の経常的補助金と約40億円の資本的補助金を注入してなお、年約29億円の赤字
県立10病院の年間平均入院延べ患者数は123万人→県内全入院患者数のたった6%。
従って、たった6%の患者が200億円(ひとり1日あたり1万6000円)もの税金の恩恵に浴しているのです。

こんな税金の使い方が許されるんでしょうか?


その他の公的病院の実態

社会保険庁が所管する社会保険病院54施設、厚生年金病院10施設←これらに投入された施設整備費410億円!
・過去5年間では健康保険や厚生年金から総額2200億円がつぎ込まれた
・毎年多額の整備費が投入されているのは経営努力が不十分で人件費が高すぎるため

 

社会保険庁の無駄使いの実態は年金関連で最近よくグリーンピアなどが話題に上がりますが、年金で運用している病院はもっとひどいです。

社会保険庁が所管する社会保険病院54施設、厚生年金病院10施設。これらに投入された施設整備費は410億円!です。

過去5年間では健康保険や厚生年金から総額2200億円がつぎ込まれています。

毎年多額の整備費が投入されているのは経営努力が不十分で人件費が高すぎるためです。


赤字の生じる理由

医療施設の経営は患者数の多寡と診療原価によって決まる
・患者の大病院志向により公的病院は患者であふれている
・公的病院には固定資産税、法人税、金利などの負担がない
・従って、赤字の原因は診療原価、特に人件費、材料費、設備投資の非効率性にある

 

私どもの病院始めほとんどの民間病院はそんな赤字を出しているところはありません。あればとっくにつぶれてます。

なぜ、公的病院は赤字になるのか。
そもそも、

医療施設の経営は患者数の多寡と診療原価によって決まりますが、
患者の大病院志向により公的病院は患者であふれているわけですから患者数は十分あるのです。

さらに公的病院には固定資産税、法人税、金利などの負担がありません。
従って、赤字の原因は診療原価、特に人件費、材料費、設備投資の非効率性にあると言えるでしょう。


現状の問題分析(1)

公務員法の壁―遅れず、休まず、働かず⇒辞めさせることができない
・働いても働かなくても給料は同じ
・改革する人間の足を引っ張る
・上記のような、あまい条件で、なおかつ高額の(経営実態に見合わない)給与 

⇒民間病院への人材供給を阻害

 

公的病院がどうであれ自分達は一生懸命やればそれで良いじゃないか、と思う人もいるかもしれませんが、例えば人件費の問題は、民間病院の人材供給を阻害する最大の要因です。

公務員法の壁―遅れず、休まず、働かず⇒辞めさせることができない
働いても働かなくても給料は同じ
改革する人間の足を引っ張る
上記のような、あまい条件で、なおかつ高額の(経営実態に見合わない)給与 

赤字なのになんで公立病院にはボーナスが出るんでしょうか?おまけに退職後平均手取りで民間より10万円も多い年金を受け取るのです。これを誰もおかしいと思わないのはどうかしています!    

民間病院で看護師を雇うには公的病院に勝るとも劣らない給与を払わなくては来てもらえません。全く働かない人も混じっている集団に給与水準を合わせなくてはいけない、これが民間病院を苦しめるのです。


現状の問題分析(2)

採算を度外視した設備投資、アメニティの範囲を逸脱した豪華な建物

⇒市民の誤解を生む「同じ医療費でも民間よりずっと良い!」


・5年後にどうなるかは誰も考えない
・倉庫の余り物や期限切れは誰のせいでもない?
・学術研究会の名を借りた癒着


 

最初の設備投資もメンテナンス代もすべて税金で、借金を返す必要もないし、作った政治家のアピールもあって、新しい公立病院はものすごく豪華な建物になります。

すると、市民はきったない民間病院と比べてこう思うのです。「支払うお金は同じなのにずっときれいだ。きっと民間病院はその分、あくどい稼ぎをしているに違いない。」

この状況で同じ土俵に立たされれば、民間病院の職員のモラールを保つのは容易なことではありません。

 


経営改革で問題は改善するか?

現システムを維持したまま、小手先の改革を行っても効率性において民間病院には勝てない(赤字解消は無理)


・職員身分保障、資金調達法や税制の見直し、補助金廃止など根本改革を行えば、もはや公的病院とは言えまい

 

こういう不公平屋や無駄使いを戒める動きも当然あって、行政改革、経営改革という声も聞こえてきますが、職員身分保障、資金調達法や税制の見直し、補助金廃止など根本改革を行えば、もはや公的病院とは言えないでしょう。

 


私的見解:公的病院は必要ない

どうしても公立にすべき、まっとうな理由がない
・僻地医療や小児医療は同額の補助金を出して民間に委託せよ
・責任者がいない状況で健全な医療はできない
・公的病院の赤字を救うための種々の方策が民間医療を阻害し、国民につけを負わせる
・補助金や設備提供を受けている私立大学病院にも同様の憤りを感じる

 

私の見解をまとめると「公的病院はいらない、つけは全て国民に回る!」ということです。

どうしても公立にすべき、まっとうな理由がない
僻地医療や小児医療は同額の補助金を出して民間に委託せよ
責任者がいない状況で健全な医療はできない

そして、補助金や設備提供を受けている私立大学病院にも同様の憤りを感じる次第です。


1.クリプトクラシー国家、日本の構造

政治家・官僚は国民の貴重な税金を自分達に見返りのある公共投資にのみつぎ込み、医療費を始めとする社会保障費を搾取している


・限られた医療財源は非効率な公的病院の人件費その他に消え、特に慢性期を担う民間病院は懸命に働いても残された僅かなおこぼれにあずかるのみである


・経営の成り立たない民間病院にお世話料を徴収されることで国民は二重の収奪を受けることになり、収めた税金に見合うサービスは到底期待できないことになる

 

以上の話でおわかりいただけたでしょうか?クリプトクラシー国家=収奪国家の意味が。

政治家・官僚は国民の貴重な税金を自分達に見返りのある公共投資にのみつぎ込み、医療費を始めとする社会保障費を搾取している。払った税金や年金をこれほど巻き上げられている国は世界にないのです。

限られた医療財源は非効率な公的病院の人件費その他に消え、特に慢性期を担う民間病院は懸命に働いても残された僅かなおこぼれにあずかるのみである。

経営の成り立たない民間病院にお世話料を徴収されることで国民は二重の収奪を受けることになり、収めた税金に見合うサービスは到底期待できないことになる。

私の父は晩年痴呆になり民間病院に入りましたが、大部屋で毎月25万円のお世話料をとられました。介護保険なんて全くあてにできませんね。


2.今、私たちは何をなすべきか

―病院の企業化―

経営理念の確立
・経営戦略の明確化
・組織改革
・意識改革
・将来展望・長期計画の策定

 

問題点の提示はこのくらいにしまして、では、私たち医療人はこの状況の中にどうやって活路を見出していくかについて話そうと思います。

まずは、病院を医療というサービスを提供する企業として確立することが重要です。

私どもの病院を例に話を進めます。


@経営理念の確立

―私たちの経営理念―

世のため人のために、より良い医療をより安く


・日本の医療を輸出産業に育てることに貢献する

 

さて、当院の経営理念、つまり何を最終目標として医療をするかということを説明します。

世のため人のためにより良い医療をより安く

無駄な検査はしない。無駄な入院はさせない。一人の若者が4人の老人を養う将来を見据え、どうしたらより良質で安価なサービスが提供できるか、研鑚していきます。これが可能であれば小手先の医療行政の変更など怖くありません。

もう一つは日本の医療を輸出産業に育てることに貢献する
日本経済において自動車産業は43兆、医療は31兆、外食28兆、コンピュータ3兆という市場規模です。とてもすごい産業なのに医療はお荷物扱いされる理由は何でしょう?

最初にも申し上げましたが、答えは自動車は外貨を稼ぐが、医療は稼がないからです。日本の医療は完全な輸入産業で、薬や機械、医療材料は外国製が圧倒的に多く、日本の機械はアジアでもアメリカに完全に負けてます。さらに今後はアメリカによる遺伝子特許の独占が待っています。

今後は日本の医療レベルをあげて自動車のような輸出産業に育てる。医療技術も海外に売りに行く、あるいは患者を受け入れる。当院はその一翼を担いたいと考えています。


A経営戦略を明確にする

―私たちの経営戦略―

・脳卒中のフォーカストファクトリーであること

・救急・手術からリハビリ・在宅まで一貫した医療の提供

・肉体的・精神的・社会的に弱い人のための医療を確立する

 

次に当院の経営戦略、すなわち、営業方針について説明します。

脳卒中のフォーカストファクトリーであること

フォーカストファクトリーというのは集中して一箇所で最初から最後まで専門的に面倒見てくれるということですね。当院も「脳のことならすべてお任せで、脳卒中後のうつ状態には精神科医、心房細動には循環器科医、糖尿病には内科医とすべてそろえております。

脳外科の場合、今の日本の制度では救急車で大学病院に運ばれて手術したら、17日以内に転院先を探さなきゃなりません。そういう病院ではリハビリはやらないし、外来にも通えません。当院は救急・手術からリハビリ・在宅まで一貫した医療を提供します。厚労省の政策には反するかもしれませんが、そのお役人も自分や家族であれば当院の方式を選ぶでしょう。

肉体的・精神的・社会的に弱い人のための医療を確立する。これは究極の言い方をすると高齢者にベストの医療を提供することです。今は何科に行ったって患者様は高齢者です。余病をいっぱい持ってる方の病気を治せれば若い人は簡単です。結果的に質の高い医療になります。
たとえ、難しい患者様でも入ってきたときより、できる限り良くしてお返しするのが病院の役割です。

 


B私たちの組織改革

・医療の本質は“人は人のために何ができるか”にある
・技術集約型の組織である病院はフラットなファーム型の組織を目指すべきである
・職種横断的な採用実行委員会―
共に働きたい人を自ら選ぶシステム
・職種の枠を越えた総合研修の持つ意味
・医療サービス統合部の創設
・監査システムの導入
・イントラネット、IT化の持つ意味
・人事考課システムの導入

 

次に当院はこれまで病院で一般的だった医者中心のピラミッド組織を変えて、すべてのスタッフが能力を発揮できる水平型の組織を作っています。医事課とか看護部とかはもちろんあるんですが、日頃の仕事も部署の壁を越えて行うし、プロジェクト的なことは職種横断型のチームを作ってやっています。                                   

何がピラミッドより有利か?
一人一人に判断能力と実行力があることで、命令に無批判に従う危険を避け、ニーズに対しスピーディに対応できることです。医療は最新機器の導入にも増して人の能力を高めることが質の向上に繋がります。
命令に無批判に従い、勉強もせず、責任もとらないピラミッド型組織では今後やっていけません。
他の産業界や軍隊でさえ、ピラミッドはもう時代遅れです。ベルトコンベア式の生産ラインも消えましたよね。

当院は採用も研修も専門事務職員でなく技術職を中心とした職員が委員会を作り自主的にやってます。研修は全職種横断なので他部署の仕事に触れることで全体を見通す目を養ってます。横のつながりで足りない部分は医療サービス統合部が、補強し、監査し、間に入って風通しを良くしています。当院はISO9001:2000を取得していますが、監査システムの存在はISOでも必須要項です。
それと並んでつながりを強化しているのがイントラネットです。イントラネットっていうのは院内のホームページみたいなものですが、リアルタイムの情報交換でリスク管理や会議時間の節約に役立ってます。

人事考課もプロジェクトの一環で、納得できる評価体系を自主制作しています。


C意識改革

−医療人は企業人たり得るか−

・忙しいのは当り前                      それでも時間を生み出し自分を磨け
・いまや自分自身を企業とみなす時代
・企業は技術と労働力に給与を支払う
・人事考課や監査は品質保持には不可欠
・企業にあっては否定的言辞は許されない
・ニーズを掘り起こす柔軟な発想を
・乗り越えたハードルだけ自分が成長する 

 

さて、病院を企業として認識するとき、最も障害となるのが医療人の意識でしょう。

何か、自分が特殊な存在だと勘違いしている人が多いのがこの業界の特徴です。何の仕事だって忙しいのです。忙しいからできない、勉強なんかする暇がない、疲れているから休みたい・・・他の仕事では通用しない言い訳です。

今の世の中は4年経つと覚えるべきことが倍になるといわれています。学校を卒業して4年経ったら卒業時の倍の知識がないと駄目なのです。

企業は個人の技術と労働に給与を払うのであって、資格に払うのではありません。資格にあぐらをかいて「こんな病院はだめだよね〜。やる気にならない。誰も教えてくれないし・・・」などと否定的で甘えたことを言っている人はいませんか?お金を納めている学生じゃないんだから、労働に対して給料をもらってるんだから、ただ口をあけて餌を待っているような人はいらないのです。患者のニーズを読み取り、自分から学んで行動を起こすのが企業人です。

まず、職場の悪口を言う前に、できることから行動してください。乗り越えたハードルの分だけ、自分が成長することは間違いありません。


D将来展望、長期計画の策定

・コンビニエントクリニックの開設
・20年後には高次機能の時代がやってくる
・精神的・身体的に真の意味で元に戻すリハビリテーション医療の確立
・キーワードは「共生」、「真の意味での市民病院」「街としての病院」、「病院を中心とした街」

 

10年後、20年後の事業計画も必要で、それを職員が認識し、計画策定、実施に積極的に参画することも重要です。

コンビニエントクリニックというのは単に24時間やっているという意味ではありません。たとえば日曜や祝日に駅前などの便利なところに託老所つきの総合的なクリニックを作りたい。仕事・家庭と治療・介護の両立を応援したい。

20年後、遺伝子治療の進化でメスを使った治療は大幅に減るでしょう。「脳の不思議」の根幹、高次機能の治療・研究がしたい。

利き手でないほうの機能を高めるのではなく、動かなくなった手足をパワーアシストスーツで動かしたい。電極を埋め込んで見えるように話せるようにしたい。

そんな夢のあることを患者さんや家族と共に協力しながら実現したい。家族ボランティアシステムをその先駆けにしたいのです。


病院の企業化の持つ意味

・少子高齢化の進行は財源不足に直結し、医療の効率化は必要不可欠である
・世のため人のために医療者は“より良いものをより安く”提供する企業の常識に学ばねばならない
・“医療は違う”というのは幻想に過ぎない                         ・市民が求めているのは産業としての医療である

 

医療だって市場原理で動くのです。これは市民から見た市場原理です。より良いものが安く提供されれば、そうでないところには客は行かない。

それを実現するには企業努力と効率化が必要である。“医療は違う”というのは幻想に過ぎないのです。 


2.今、私たちは何をなすべきか

−ボランティアシステムが社会を変える−

・財源の不足に対するひとつの解答
・医療を貨幣経済から切り離そう
・市民が医療の主役になる日

 

家族が病に倒れて初めて、病気や医療のことを真剣に考えるのが今の日本の平均的な市民のありようです。

最初は「退院したらできるだけのことをしたい」気持ちはあるのですが、いざ半身麻痺の患者様を見ると、しり込みして引き取るのを拒みます。病気や介護の知識・経験が全くないからです。

入院中から一緒に勉強しましょう。また、できることは介護でなくてもいいから、グリーンの手入れでも、電話番でも、リクレーションでも、何でもいいから手伝ってください。

アメリカに安くて評判の会員制スーパーマーケットがあり繁盛しています。秘密は会員が店員も兼ねていて、月のうち数時間そこで働くのです。仕入れも販売も自分達だからごまかしがないので、品質も安心です。

私は家族ボランティアに限らず、医療も「これからはこの形式だ!」と思いました。医療サービスの提供者側に市民が入ってこそ、信頼できる医療が実現できるし、不信感から生まれる無駄な訴訟も減るでしょう。


2.今、私たちは何をなすべきか

−日本の医療を輸出産業に変えよう−

・私たちが中国進出を目指すわけ

・医療を外貨が獲得できる産業に

 

脳卒中の急性期に入ってこられた患者さまが、手術し、急性期・回復期のリハビリをし、あと半年きちんとリハビリできれば自宅で自立した生活ができるのに・・・という状況は日常良く経験することですよね。

しかし、今の日本ではそんなに長くリハビリできない。その費用を政府が認めないから、理学療法士もいない老人病院に入り、結局寝たきりになる。悲惨だし、無念です。

そこで、我々は考えました。物価の安い中国で良質のリハビリを提供できないか!

また、看護・介護のマンパワーの輸入、協力も医療拠点があれば可能性が大きく広がる!

今後は医療もグローバル化の波を逃れられないでしょう。だったら積極的に参加すべきではないでしょうか。元気な医療産業を目指しましょう。


皆で、世界一良質な脳神経外科医療を目指そう

・医療を志した原点を忘れず、文句を言う前にリーダーとなって新しい行動を起こそう
・フォーカストファクトリーの概念も、ファーム型の組織も、ボランティアシステムの導入も皆私たちのオリジナルな概念である
・この世界にはまだまだ夢がある
・自信を持って新しい医療技術の開発において、社会科学上の概念の確立において、皆で世界一を目指そう

 

いつもは職員に向けて言う言葉がこれです。

今日は聞いてくださった、若い医療従事者の方々にささげます。

文句を言う前にリーダーとなって新しい行動を起こしましょう。

この世界にはまだまだ夢があるのです!


 


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