活動報告

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2017/5:第29回活動分析研究大会(アイメッセ山梨)


氏名藤本 祥多(リハビリ)
テーマエッジを捉える 〜麻痺側手の実用性向上を目指して 急性期からの関わり〜
備考エッジを捉える 〜麻痺側手の実用性向上を目指して、急性期からの介入〜
北原国際病院 作業療法士 藤本 祥多
キーワード:急性期、エッジ、接触感覚

【はじめに】
麻痺側手の実用性向上を目指し、関わりの中で道具操作を行なうことで、指先でエッジを捉えられるよう意識した。短い介入の中でも右手の操作性、生活場面の中で変化が見られたため以下に報告する。
【症例紹介】
性別年齢:40代女性
診断名:左被殻出血 
主訴:右手が上手く
使えない
現病歴:平成28年10月7日夜から右上下肢の痺れ感あり。翌朝になり右上下肢に麻痺が出現し、動けなくなったところを兄が発見し救急要請。
社会的情報:父と2人暮らし。無職で1日中自宅でゴロゴロとゲームをしながら過ごすなど不摂生な生活をされていた。
趣味:賭け事、ゲーム。
【作業療法評価】(発症後3週間経過時)
全体像:JCSⅠ-2。コミュニケーションは良好。100kg超えと大柄な右片麻痺を呈した女性。
Br.stage:上肢Ⅳ、手指Ⅴ、下肢Ⅳレベル。
感覚機能:表在・深部共に中等度鈍麻。
基本動作:起き上がり・座位自立。立ち上がり・立位保持軽介助。
日常生活動作:歩行移動は困難(訓練時のみ実施 半介助)であり、車椅子を使用。利き手の右手は箸やスプーンを上手く使用できず、本人も失敗を嫌がり左手を使用される。トイレや入浴動作は半介助。
高次脳機能面:軽度意識障害残存。軽度右半側空間無視、注意機能低下あり。
【動作評価】
座位では大柄な体格の影響もあり、支持面は広く安定しているが、立ち上がり場面では感覚機能低下に伴い、足底からの感覚情報を入力できず、麻痺側下肢の足底接地が不十分な状態で立ち上がろうとされる。そのためバランスを崩し、麻痺側への転倒のリスクが高い状態であった(図1)。両上肢挙上場面(可動範囲、挙上範囲)では、右肩周囲の不安定に伴い上肢は動揺。グーパーを促した場面では、頸部屈曲右側屈位で固定、上肢の重みも影響し右肘屈曲位となりやすい。
ペグ操作(図2)のように指先での操作が求められた際には、エッジからの感覚情報が得られず上手く引き抜けない。
箸操作(図3)はなんとか麻痺側で使用できるが、握り箸となり、箸先でつまむというよりは掬い上げるようにお手玉を掴む。操作を繰り返す中で固定箸と操作箸は同時に作動してしまいお手玉を捉えきれておらず、箸先からの知覚探索が難しい。
【問題点】
麻痺側肩甲帯のアライメントは崩れ、そのため動作時に重さが加わり手指の操作性低下へと繋がっている。その状態で操作時の質を高めようとすることで過剰出力となり、尺側部の代償固定を招いている。
同時に手指の随意性・知覚探索機能が十分に発揮できず、対象への接近・接触(特に箸を介した場面)は、より一層混乱さを強めてしまい、指先からの手掛かりが得られない状態となっていると考えた。
【治療方針】
意識的に指尖での道具操作を行なう中で、各物品に存在するエッジを捉えられるように促し、知覚探索機能の向上を図る。
・ペグ、積み木を使用。
特性:両者共に木製で軽く、エッジがはっきりとしているものを使用した。
エッジ(端、縁):丸まったものと、角ばったものとに分けられる。面と面、線と線との切り替わり部分に存在。手で対象物を捉える上で無意識的にエッジを頼りにしている。
【治療】
1ペグを弾く:始めにペグのエッジ部分を指腹で触れて確認させる。示指がエッジに触れ、圧刺激を加え、その反動がペグに伝わらせ、中に浮かせるよう指示。弾くために必要な圧刺激を加えられず弾き損ねる場面が始めは多く見られたが、模倣を見せて繰り返し実施していく中で力配分の調整が可能になってくる。弾いた際に、垂直へ浮き上がるようになり、本人も手応えを掴んでくる。(図4)
②積み木を転がす(裏返す):ペグとは形状は違うが、母指・示指の指腹でエッジを捉えなければ裏返してもらうよう誘導。
視覚情報も利用しながらの作業を促し、繰り返し自身での操作を依頼した(図5)。
治療中の反応:使いにくいからと日常生活では避けている指先での作業を意識的に実施することに対するストレスを感じていた。治療に用いた課題では本人が意欲的に取り組める課題とはならなかったため、本人の負けず嫌いな性格を利用して、オセロを追加で導入した。
③オセロ:麻痺側手のみ使用可能とし、本来のオセロのルールで実施。罰ゲームを設定し、意欲を引き立てた。治療①、②では
課題を遂行するのみであったが、オセロを用いる中で無意識的な指先の動きを促すことができた(図6)。ゲームとして始める前に、積み木で行なったように、駒石を裏返す練習を実施し、オセロを用いた際の指尖の動きを事前に確認した。オセロは軽く、操作時の上肢の代償運動を最小限に抑えられた。
【結果】
座位においては、麻痺側臀部への荷重が加わり左右対称的な座位姿勢へと改善されてきた。立ち上がりにおいては、右下肢がしっかりと足底接地できていない状態で立ち上がる場面が継続して見られ、立位へと移行しきれずふらつきを認める。結果として机上課題を通じて下肢へと効果をもたらせることはできなかった。
箸操作場面(図7)では介入前より箸先を使用できており、上肢の動揺は減少し、肩周囲の安定性も向上している。使用時箸が手からすり落ちることもなくなった。実際に食事場面で箸使用を促した際(図8)にも、箸のまとまりに課
題を残すも、なんとか自力摂取できるようになってきた。
ペグ操作(図9)では、代償運動認めるものの、右手でなんとかペグ
先のエッジを捉え引き抜くことが可能になる。
【考察とまとめ】
本症例の随意性は入院時より比較的保たれており、座位が自力保持できるほどの体幹機能は保たれていた。しかし、感覚障害が顕著であることにより左右の非対称を強め、非麻痺側頸部から肩甲帯にかけて代償固定を強め、麻痺側肩甲帯の不安定性を呈していた。そのため麻痺側上肢・手指は対象操作に応じた身体反応が得られ難く、同時に指先からの知覚探索機能が低下している状態であった。これらを通して、末梢からの知覚探索(エッジを捉える)を促すという側面からのアプローチにより座位での活動における非対称な筋活動の修正、麻痺側肩周囲の安定性向上に伴う手の操作性を向上させることを目指した。柏木は、「手指は対象物との接触関係を探索するという行為の中でもっとも働きやすいし、操作感覚の再生は行為としてそれに含まれる上肢の制御にも影響を与える」と述べている。ペグを用いた課題では、集中してペグが真上に飛び上がっているかを確認することで、指ではなくペグに注目するように切り替わっていった。オセロも同様に手の意識的な動きが解放されていった。それに伴いペグやオセロと指から生まれる接触感覚が視覚情報も加わりクローズアップされ、運動が組織化されやすくなり、手の実用的使用の改善に繋げられたのではないかと考える。症例は結果的に箸操作が可能になったが、熟練した道具を使う手としての獲得にはまだ至っていない。しかし、発症してからの期間が短く病前のイメージが残存している急性期から、積極的に手へ関わったことは症例にとって大切であったと考える。
手への介入の中でも姿勢コントロール、体幹機能へと関連付けられた。今後は手が姿勢制御に及ぼす影響について更に知識を深め、急性期から生活範囲拡大を目指した関わりを増やしていきたい。
【謝辞】
今回の発表にあたりご協力くださいました患者様、諸先輩方に深く感謝申し上げます。
画像の使用、掲載に関して患者様の了承を頂いております。
【参考、引用文献】
1)環境適応 第2版 柏木正好 青梅社
2)別冊拍塾ノート「肩甲帯・上肢」
3)第27、28回活動分析研究大会誌